たたら製鉄(島根県)
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石州和紙(島根県)
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「もとの良さ引き出したい」 デザイナー・イトウケンジさん(島根県飯南町出身)

畑漆器店のcol.シリーズ

MUTEの事務所で打ち合わせをするイトウケンジさん(右)=東京都内

「モノの特徴や良さを形に落とし込んで伝える」。日用品や伝統工芸品などのデザインを手掛けるデザイナーの2人組「MUTE(ミュート)」として活動するイトウケンジさん(34)=島根県飯南町頓原出身=は、プロダクトデザイナーとしての自らの役割をそう語る。

三刀屋高校在学時、甲子園を目指して汗を流した野球と同じくらい美術が好きだった。建具屋を営む実家は代々職人の家系。小さい頃から住居と一体になった工房が遊び場となり、「ものづくりはいつも身近にあった」と振り返る。

美術系の短期大学を卒業後、一度はデザイン関係の仕事と離れたものの、情熱は消えず、著名なデザイナーを数多く輩出している桑沢デザイン研究所(東京都)に入学した。在学中に働くようになった空間設計会社で受注から制作までの仕事のノウハウを身に付け始めた頃、同研究所の同期、ウミノタカヒロさんと独立を決め、2008年にMUTEを立ち上げた。イトウさんは主に立体物のデザインを担当する。

転機は09年に開かれたデザイン関連のイベントへの出展。試行錯誤して作った製品はシンプルなスタンドだった。玄関において傘立てや鍵置きに使うことができるなど汎用(はんよう)性の高いデザインがメーカー関係者の目に留まり、今でも販売が続くロングセラーになった。

石川県内の漆器メーカーの商品「col.」をデザインしたことで、業界内で存在が一躍知られるようになった。本来は漆を塗って完成させる漆器だが、イトウさんは土台となる木材加工技術の高さに着目。「若い人にも気軽に手にとってもらおう」と、赤や青などカラフルな色をきれいな木目と組み合わせた。伝統工芸品を再定義したデザインは海外メディアにも取り上げられ、高い評価を受けた。

その後も、東日本大震災で被害を受けた宮城県石巻市でものづくりを展開する「石巻工房」や、墓石で有名な香川県の庵治石を使った置物や日用品「AJI(アジ) PROJECT(プロジェクト)」などへ参加した。販売を間近に控えるのは、福井県内の間伐材を使った「FRAME(フレーム)」。用途に応じてテーブルやラックなどに自由に使える催事用の製品をデザインした。

全国各地の伝統工芸品や産業のデザインに携わることも多い。「消費の中心となる若い世代に興味を持ってもらえなければ優れた産業も衰退する。30代の自分はそのど真ん中の世代なので向き合いやすい」と話し、「島根に根付く焼き物や和紙などにも興味がある」と意欲を見せる。

常に複数の企画が同時進行し、活動の幅は年々広がる。「自分の表現したいものを前面に打ち出すのではなく、もともと持っている良さを消さず、さらに引き出す」ことが自分の仕事であると語り、「商品の裏側には伝統や課題などさまざまな事象がある。そこへ導くきっかけをデザインでつくりたい」と力を込めた。

(2018年1月30日付 山陰中央新報掲載)


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